アンジェラの灰フランク・マコートと原作「アンジェラの灰」
フランク・マコートと原作「アンジェラの灰」


 フランク・マコートが自伝「アンジェラの灰」を出版したのは1996年夏である。ニューヨーク・タイムスなど数多くの書評で絶賛されてベストセラーとなり、翌年のピュリッツアー賞(伝記部門)、全米図書賞を獲得した。その後、この本は3年近くにわたって全米ベストセラーズのベスト10に顔を見せ、大書店「バーンズ・アンド・ノーブル」でもインターネット書店の「アマゾン・ドット・コム」でも売れに売れた。著者自身が朗読したカセットテープも人気を博している。
 優秀な会計士を雇って税金対策をしっかりやったおかげか、雑誌「Forbes」の芸能人・作家長者番付にはなぜか載らなかったが、ペンシルベニア州にしゃれた邸宅を構えたというから、印税や映画化権でひと財産築いたことは間違いないだろう。
 ピュリッツァー賞はジャーナリスト、報道写真家、ノンフィクション作家の登竜門で、20~40代で受賞する人が多い。マコートのように60代で、しかも処女作でいきなり受賞するのは稀有な例である。そもそもマコートはジャーナリストでも職業作家でもなく、約30年間、ハイスクールで英語や作文を教える教師だった。世間ではむしろ、コメディー俳優として舞台やテレビで活躍した弟のマラキのほうが有名人だった。マラキは今、ぼやいている。「昔はフランクは俺の兄として紹介されていたのに、今では俺がフランクの弟と呼ばれてしまうんだ」
 高校教師時代のフランク・マコートは、けっこう怖い先生だったらしい。最初の赴任先はニューヨーク・スタッテン島セントジョージにある職業科のマッキー高校で、自動車の修理や鉄筋の組み立て方などを覚えるために入学した。生徒たちを行儀よく机に座らせて、これから先の職業生活にはあまり役に立ちそうにない古典文学や文章の書き方を教えた。今から思えば授業を成立させただけでも大した先生だ。後にニューヨークの進学校、ピーター・スタイビサント高校に移り、1987年に退職した。
 言うまでもなくアメリカは移民の国であり、ニューヨークは人種のサラダボウルである。進学校と言えども白人ばかりではなく、中国系や韓国系など移民の子弟も多かった。彼らに作文の題材として自分の家族の移民体験を書かせているうちに、マコートの内面にある「アイルランド系である自分」への意識が熟成し、それが結晶したのが「アンジェラの灰」だといわれている。言ってみればマコートは、かつての教え子たちにお手本を示したのだ。
「アンジェラの灰」の続編“Tis”は1999年9月に出版され、日本語版も土屋政雄氏訳で本年末に刊行される予定である。その内容を少しだけ紹介しよう。
 1949年に生まれ故郷のニューヨークに帰ってきたフランク青年はビルトモア・ホテルに職を得るが、ドジばかりして結局解雇される。次に就職した帽子会社をクビになったところで朝鮮戦争が勃発。アメリカ国籍を持つフランク君は徴兵され、NATO軍の一員として西ドイツに派遣されるが、主な任務は軍用犬の世話だった。除隊後、軍歴が物を言ってニューヨーク大学(NYU)に入学でき、教師への道が開ける。私生活では母親のアンジェラやマラキ、その他の兄弟たちをアイルランドからニューヨークに呼び寄せて一緒に住んだが、大恋愛の末に結ばれたブロンド美人の最初の妻とは離婚を余儀なくされている。
 さて、行方不明になった父親のマラキであるが、ケネディ大統領が暗殺された1963年にニューヨークに姿を現す。しかし、相変わらずの酒癖の悪さが災いし、家族に冷たく追い返される。その後、20年以上の月日を孤独に生き、1985年に北アイルランド・ベルファストの病院で亡くなった。
 母親アンジェラは1981年、ニューヨークで子供たちに看取られながらこの世を去る。葬儀の後、フランクとマラキは彼女の遺灰を故郷のアイルランドに返しに行く。それが「Angela's Ashes(アンジェラの灰)」という原題の由来である。マコートの最初の構想では、原作はそのシーンまでの大長編になる予定だったが、出版社側が「それでは長すぎる」と渋ったため、ニューヨークに旅立つ場面までで切って、「アンジェラの灰」のタイトルをそのままに刊行したというエピソードがある。
 アメリカでは弟マラキが自伝「A Monk Swimming」を出版したほか、自分の貧しい幼少期や移民体験を綴った“後追い本”が続出。一方、「書かれた内容は事実と反する」と激しく批判する本がアイルランドで出版され、それに俳優リチャード・ハリスが同調してアラン・パーカー監督をもこき下ろすなど、「『アンジェラの灰』現象」はアメリカのアイルランド系社会とアイルランド本国を巻き込んで、熱く続いている。(敬称略)

イントロダクション
ストーリー
アラン・パーカー
フィルモグラフィー
エミリー・ワトソン
ロバート・カーライル
フランク・マコート
フランク・マコートと原作「アンジェラの灰」
ジョン・ウィリアムズ
「アンジェラの灰」全収録曲
キャスト
スタッフ
アラン・パーカー インタビュー
アラン・パーカー監督自身によるプロダクション・ノート
「アンジェラの灰」の背景
『アンジェラの灰』友の会
アイルランド大使館
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