サイダーハウス・ルール
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『サイダーハウス・ルール』はこうして生まれた

第3章
マグワイアの悩み
<ホーマーを単なる純粋無垢な人物にしたくなかった>



The Cider House Rules 子供たちと仕事をするのもハルストレムにとっては魅力だった。「当然子供たちの出番である最初の孤児院の部分は、本当に楽しかった」と彼は告白する。ハルストレムは、あらゆる年代の子供と独特なつながりがあって、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』以来の彼の全作品で、子供というのはひとつの特徴となっている。『サイダーハウス・ルール』に登場する孤児たちはほとんど無名で、撮影に先んじニュー・イングランドで行われた3回の公募オーディションで選ばれた地元の子供たちだ。たとえば孤児のカーリーを演じた6歳のおとなしいスペンサー・ダイアモンドは、サッカーの練習に支障がないという条件で、オーディションに参加することに同意したという。病弱なファジー役の愛くるしい7歳のエリック・サリヴァンは、撮影の合間に、トビー・マグワイアとチェスやバッグガモンに興じていた。
 ハルストレムは文字通り彼らの視点に合わせることにより、新人俳優たちから記憶に残る名演技を引き出した。けっして見下すことなく、よくしゃがんだりして子供たちの目を見る。優しいがしっかりとした口調で話し、子供たちもその冷静な指示と励ましに応えた。
「私に子供への特別な秘訣があるかどうかはわからない」とハルストレムは考える。「自分は12歳で成長が止まったようで、変な言い方をすれば、12歳の子供の気持ちがわかる。だから、子供たちのレベルで話すのは、私にとって自然なんだ。子供たちと対等なレベルで話をしているだけだと思っている。意識していることではなくて、子供を尊重すれば自然とそうなるだけだ」
 この物語は映画の展開とともに自分の運命を発見するひとりの孤児、ホーマー・ウェルズの人生を中心に回る。その主役を演じるのが、トビー・マグワイアだ。弱冠23歳にしてすでにベテラン俳優の彼は、驚くほど多種多様な映画に出演し、重要な役どころにもいくつかキャスティングされてきた。
 グラッドスタインがマグワイアの存在に初めて注目したのは、グリフィン・ダン監督のアカデミー賞候補作の短編“Duke of Groove”で絶賛された演技である。ちょうどこの短編が封切られた頃、グラッドスタインはアーヴィングと話し合いを始めていた。当時マグワイアはまだ10代だったので、グラッドスタインはマグワイアを別の孤児に配役しようと頭の中に描いていた。

The Cider House Rules 「初めて“Duke of Groove”でトビーの演技を見て、『あれがバスター(幼い孤児のひとりで、最終的にキーラン・カルキンが演じた)だ』と思った。しかし映画の完成までに4年かかった。だからトビーもホーマー役にまで成長した。私たちはみな、トビーにはいい意味の無垢さと成熟と思慮深さという素質があるので、すばらしいホーマーになるだろうと思った。彼にはすごく引き込まれる。だから彼の目を通してこの映画を見ていく観客は、多くの人が彼になった気分で、彼のこと、彼に迫られる選択、彼がぶつける反発に思いを寄せるだろう」
 しかし当初、マグワイアの頭を悩ませたのはホーマーの無垢さだった。「僕は本当に脚本が気に入った。ホーマーは静かな人間で、その点も好きだったが、人は僕のことをそういう男だと思い、この役とダブらせて考えてしまいがちだ。だからそれが最初は引っかかった。これをやらなければ、そしてやりたいと思ったのは、ラッセと会ったときだった。この役をどういう風にしたいか、監督の希望をふたりで話し合った。それで、年齢以上の賢い視点、内省的な心の解釈を加えることで、ホーマーをおかしいまでに面白くできるのではないかと思えてきた」
 ホーマーは孤児院の外の生活には比較的免疫がないにもかかわらず、マグワイアとハルストレムは、ホーマーをいわゆる典型的な純真無垢な人物として描きたくはなかった、とマグワイアはいう。「ラッセと話したのは、ホーマーはいろんな意味でうぶだけれど、目を大きく見開いて『わあ、こんな世界は初めてだ』みたいな態度で、彼を演じたくはなかった。そういう感情はあえて控えめに表現したかった。子供は『これどういう意味かわかる?』とか『これまでに見たことある?』と何度も訊ねられると、うそをついて、まずはわかっているふりをしてから、耳を澄まし観察し始めるものだ。僕はそういう風なアプローチの仕方を望んだ。ホーマーはすぐに何でも吸収する熱心な観察家だが、実際には後で自分が発見したことにもっと驚いていると思う。それでも、物事の本質が何か、見かけとは対照的に真実は何か、彼は見通してもいる」
 マグワイアによれば、ホーマー役の解釈についてハルストレムと初期に話し合いをしたことで、「その役への関心が一気に誘発された」という。この話し合いは撮影の間もずっと続き、ときには直感で分かり合えるレベルに達することもあった。
 「トビーは、ホーマー役に私が期待している延長線上にもっとも近い。ときどきビデオモニターの後ろに座って、彼の演技に何か起きないかと期待していると、きまって何かが起こる。とても不思議だった。彼の演技はとても微妙だが、豊かでニンマリさせられるので本当に楽しかった。とにかく彼の判断が大好きだ。私が万が一俳優だったとしても、同じ選択をするだろう」とハルストレムは語る。
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