サイダーハウス・ルール
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『サイダーハウス・ルール』はこうして生まれた

第5章
セロンのメッセージ
<私たちはすべて人間。みなルールを破る>



The Cider House Rules 面白い役どころに取り組んだ出演作が目白押しだったせいで、普通は元気いっぱいのセロンも疲労困憊していた。しかしこの役に賭ける情熱は本物だった。それは彼女の力となり、オーディションでも伝わってきた。「彼女は本当にこの役をやりたがった。必死で訴えてきた。会場に入ってきた彼女は台詞を読んで、監督を感動させた」と共同製作のアラン・ブロンクィストは振り返る。
「シャーリーズは、ビタミンAからFまですべての錠剤がボトルに入っているようだ。彼女の存在にはとても元気づけられる。とても頭が切れて、才能があって、たくさん一緒に仕事ができて楽しかった」とハルストレムは語る。
「キャンディには人生を謳歌する熱意、俗っぽさ、ロブスター漁師の娘の土臭さがある。しかし彼女はもっと大きなものを夢見ている。シャーリーズはそれらをすべてつかみ、豊かな人物像を見事に演じた」とグラッドスタインは語る。
 ジョン・アーヴィングの作品の中でもとくに『サイダーハウス・ルール』の熱烈なファンだったセロンは、キャンディの弱点に彼女の長所と同じくらい興味を惹かれた。「私がこの映画に出たかった理由のひとつは、キャンディが傷物になるからでした。いろんな意味で、この映画はホーマーの青春物語でもあり、キャンディの青春物語でもある。私がとても気に入っているのは、彼女が心から愛する魂の友であるウォリーと、人生に飛び込んで来て再び純粋さを教えてくれるホーマーとの間で、心をかき乱されるところ。若い青年が人生とは一体何かを体験して学び、その彼の発見のプロセスがどのようにキャンディの心を開くかを描いた美しいラブ・ストーリーです。結果として、キャンディは多くの疑問と葛藤に苛まれるけれど、そこは本当に興味深かった。彼女は完璧ではないけど、それを補うものがあります。彼女が過ちを犯したときでさえ、どうして彼女やその周りの人間はそういうことをしたのか、彼女の行動を理解できます。彼らが皆ルールを破るように、私たちも皆ルールを破る。私たちはすべて人間。社会の基準は必ずしも現実の人生にそぐわないのです」
 セロンはキャンディの役づくりの上でも監督とのコンビが助けになった、と語る。「ラッセの演出はとにかくすばらしい体験でした。また彼と仕事をする機会があったら飛びつくわ。彼は私たちの考えをよくわかってくれました。それはすごい満足感だし、助けになった。この映画でもっとも難しかったのは、ジョン・アーヴィングが2時間の中に凝縮した、登場人物の多彩な面を演じ切らなければならなかったこと。しかも、こういうことはあるって、人が実際に信じられるものにしたかった。その点については真剣に向き合ったし、私たちは皆多くのことを議題にしました。ラッセは私たちに意見を促し、リハーサルでどう演じるか、役者の考えに細心の注意を払いました。そして実際の撮りの頃には、その考えを反映したリライトを手にしていました。監督は本当にクリエイティヴなやりとりの雰囲気を作り上げてくれ、とても嬉しかったのです」
 ハルストレムも、セロンの意見を心から高く評価し、彼女の指摘は大変貴重だったという。「とりわけ彼女の反応は、場面に適応し、新しいアイディアや変更を生み出すという点で、とても役立った。たとえば、キャンディとホーマーの初めてのラブシーンにも彼女なりの考えがあった。私にも違う考えはあったが、彼女のアプローチ方法ですばらしいものができた。映画に貢献する適任の俳優を選べば、これほどラッキーなことはない。今回の場合、実際に彼女の意見をいくつか取り入れたから、まさにラッキーだった」
 アーヴィングからすると、この美しく洗練されたセロンは、ホーマーが恋心を寄せる相手としてまさに適役だった。「脚色の過程ではキャンディはホーマーよりも恋愛にたけている女性にするつもりだった。ほかにもラッセと私が最初から同意していた事があり、ふたりの恋愛の解釈に大きな手助けとなった。つまり私たちが望んでいたキャンディは、ホーマーよりちょっと年上で、ホーマーにとって経験豊富な女性だった。だからキャンディとウォリーに並ぶと、ホーマーはいまだに少年のように見える。キャンディのような女性とホーマーのような少年のありえなさそうな組み合わせこそ、アピール力がある」
 一見すると、南アフリカ出身の女優には、ニュー・イングランド生まれの役とほとんど共通点がないように思える。しかしエリカ・バドゥ演じるローズ・ローズとキャンディの関係に共通の地盤を見つけた。
「キャンディとローズ・ローズとの関係には、魅力を感じるものがありました。私自身南アフリカ共和国で育った経験にとても近かったのは事実。南アフリカの白人なら黒人差別するという風に一般化されたりします。それは人にありがちなことだし、私にもつきまとう問題でした。でも13歳まで農場で育った私は町に出たことがなかったのです。両親は道路建設の会社を持っていて、従業員はみんなその農場に頼って暮らし、家族も子供たちもみなそこに住んでいました。私はひとりっ子で、その労働者やその子供以外には私の周りに人はそんなにいなかった。だからそこには特別な絆が生まれ、それはキャンディとローズ・ローズの関係と同じだと思います。たとえそれが40年代のことであれ、ふたりはおそらく一緒に大きくなり、キャンディは農園のウォリーを訪ねたことでしょう」
 セロンが農場育ちだという経歴は、リンゴ園の車に使われた30年型のトラックを運転する際に大いに発揮された。キャンディなら一生そういうトラックを運転していたことだろう。そして幸運にも、シャーリーズの運転は文句なしだった。
The Cider House Rules「今回の映画では、2、3台の違う車を運転していただけだ。シャーリーズからは、でかいギアが装備された1941年のマーキュリー車の運転がうまくなったと褒められたよ」とポール・ラッドは語る。
「1942年当時の若者が、恋人を捨てるのではなく、中絶に連れていき、すべての面倒を見る覚悟で、なおかつまだ戦地へ行くつもりだというのが、僕には面白かった」
 ウォリーはアメリカを代表するヒーローのように、育ちもよく志しもあるが、ラッドからすると、こうした資質よりも普通なら隠すかもしれない弱点に魅力を感じたという。
「ウォリーに関して僕が必ずしも魅力を感じなかった部分こそ、彼が偉大な男だとされている点だった。最初は、ウォリーは恋人を愛するアメリカの代表的な兵士で、みんなから愛され、実のところ退屈な役に思えた。僕にできるとしたら唯一、この好青年の顔の裏側の心の中ではどんなことが起きているのか探ることだった。どんな人間も複雑な生き物で、その手の完璧な奴も、たいてい何かを隠しているものだ。恐ろしい状況に置かれているウォリーは、すべてを丸く納め、のんきに構えようとしているが、もし彼の恐怖や迷いが覗く瞬間があるなら、それこそ魅力だと考えた。僕はアメリカを愛するGIのただの縮図ではなく、人間の別の一面を見せることのできる瞬間を探した」
 その瞬間は農場で、ラッドが“エンジン付の手押し車”と呼ぶ“ドゥードルバッグ”という変な小型自動車を操縦しているときに起こった。部品の寄せ集めにガソリンを載せたようなおんぼろ車で、リンゴ園の中を向こう見ずにホーマーを乗せて走るというシーンがあった。ラッドとマグワイアはその場面を楽しみすぎて、監督がカットと言って次のシーンの準備を始めた後も、リンゴの木の周りを楽しく走り回っていた。このシーンは面白かっただけではなく、ウォリーの欲求不満がたまった激しい一面が暗示されている、とラッドは指摘する。
「この人物には彼を駆り立てる、無謀さへの欲求みたいなものがあると思う。ウォリーがこのトラックでリンゴ園を走り回り、しかも目を閉じて注意を払わず運転するという、この場面をつけ加えたのも、ジョン・アーヴィングに伝えたい何かが確かにあったからだと思う。ウォリーのスリルを求める一面だ。彼は戦争に志願した。彼は出兵して爆弾機に乗りたいと思っている。それはそれが義務だからだけではない。そう、その一面にも興味を持った」
「ポールはあきらかにウォリーというキャラクターに別の面を加えた」とハルストレムは語る。「彼のおかげでウォリーは深みのある人物になった。ポールはまた微妙な笑いにおいてもすばらしい。たいてい彼は微妙な描写を好み、アメリカン・ヒーローの仮面に隠れるひびを探そうと必死で臨んでいた。おかげでずっと面白い登場人物になった」
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