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何時からでしょうか、ままならぬことは沢山あれど、ある程度現実をコントロール出来るようになったのは。時折悶々とし癇癪を起こせども、大抵の場合は
世界と折り合いをつけて、自問自答することも忘れ、所詮、こんなものだと最初から諦めて、日々を安楽に過ごす術を習得し始めたのは――。今なら好きになった相手に対して好きだと伝えることが出来ます。その恋が実らぬと解ったならば、苦悶しながらも忘れ去る狡賢さを、他の恋で代用し淋しさを紛らわせる柔軟性を持っています。しかしかつて僕達は恐ろしくストイックでした。ストイックであろうとした訳ではありません。ストイックに生きるしか方法を知らなかったのです。好きになってしまったならば、その人が自分に見合うか見合わないか、相手がこちらを振り向いてくれる可能性があるかないかを考えもせず、感情を昂ぶらせてしまうのです。その気持ちを上手く相手に届ける手段も知らず、只、やみくもに想い続けるのです。コミュニケーションを取るにはマナーや段取りが必要だなんてことを僕達はちっとも知りませんでした。否、知ったとしても僕達は、自分の想いを成就させる為に時間をかけて計画を遂行することをしなかったでしょう。一つの感情に支配され翻弄されている僕達には、待つ余裕がなかったからです。周りの状況を見て冷静な判断を下すキャパシティのない僕達に、少し先の未来を意識する遊びを持つことの有効性など理解出来よう筈がありません。僕達は現在を必死に、何のレトリックも用いずに生きるしかありませんでした。真正面から正攻法で武器も防具も持たず立ち向かう僕達に、世界は残酷な現実を突きつけます。慣例がない、早過ぎる、非社会的だ、リアリティがない……という理由をもって世界は、一途な僕達の行く先を阻みます。世界が提示する理由は、僕達が想いを断念するのに納得出来るものではありませんでした。僕達は世界の横暴さに驚き、抵抗します。しかし不完全な僕達は世界のガードを打ち破る力もテクニックも持ち合わせてはいないのでした。僕達は自分の無力さを嘆き、自分の理解不可能なルールに乗っ取って機能する世界を呪います。そして何度も何度も世界に対して戦いを挑むのです。軽くあしらわれ足許をすくわれようが、話にならないと嗤われようが、反モラル的だと脅かされようが、僕達は自分の情動を正義だと信じ、負け戦を繰り返すのです。
この映画において、主人公のスティーヴンはごく普通の高校生として描かれます。文才はあるものの、自分ではその文才に自信が持てない、少しオクテの高校生である彼は、多くの同級生達が何の疑問もなく楽しげにスクールライフを送る姿に追随することが出来ません。世界に対して不満がある訳ではない、けれどもすんなり受け入れてしまえる程に世界は居心地が良くはない。世界との軋轢を抱えながらも彼は、世界と闘争をするまでのモチベーションを持たぬまま、毎日をやり過ごしてきました。自分がホモセクシャルであることに対して罪の意識はなく、それを当然のこととして受け入れてはいるものの、彼が暮らすのは保守的な田舎町、級友や親に対してそれをカミングアウトする気にはなれない。しかしそんな彼が世界に対して戦いを挑まなければならぬ時、疑問だらけの世界に対して自分のアイデンティティを賭けて対峙しなければならない時がやってきました。思いがけず手に入れた夢のような恋愛を穢れたものとしない為、彼は勇気を振り絞って孤立無援な戦士となる道を選びます。
スティーヴンの戦いを、ホモセクシャルであるが故の特別なものとして捉えてしまってはこの作品のテーマを見失ってしまうことでしょう。彼の戦いは、自分が一等大切にしたく思ったものをないがしろにしたくないというストレートな矜持から発生するのです。思春期だからこそ、嘘をつくことも出来ずに不器用に守り抜くしかなかったかけがえのない自分の核。きっと、スティーヴンのように自分のセクシャリティがマイノリティのものだったという特殊な経験を持たずとも、人は皆、自分が守らなければならぬもののに正直であるが為、たった一人で世界に戦いを挑まなければならなくなったことがある筈です。その戦いの勝敗は重要ではありません。肝心なのは力一杯、戦えたかどうかなのです。たとえ負けたとしても力の限り戦い抜いた思春期を持つ人は、思春期を過ぎた後、胸を張って臆することなく世界と向かい合えるでしょう。
嶽本野ばら (Novala Takemoto)
京都府宇治市生まれ。水瓶座
1992年から97年まで、関西のフリーペーパー『花形文化通信』にエッセイを連載。98年『それいぬ −正しい乙女になるために』と題して単行本化。
2000年10月、書き下ろし小説集『ミシン』で作家デビュー。
2001年4月に出版された『鱗姫』(小学館刊)は大絶賛発売中。 また、『カフェ小品集』(青山出版社)が7月25日発売された。
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最初に一人で世界にノーをいう時には勇気が必要です。大きな決断と少しの後押しがなければ勇気は行動となりません。この映画は少しの後押しがない為に大きな一歩を踏み出せずにいる全ての戦士予備軍の背中を優しく押してくれるでしょう。自分が誇れる自分を持ち続けたい人よ、ラストシーンで共に明るい涙を流し、明日の戦いに臨みましょうよ。
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