

佐藤友紀(フリー・ライター)
『バスキア』が出品されたベネチア映画祭で、一度だけジェフリー・ライトにインタビューしたことがある。物静かで、哲学者のような風貌と語り口は、バスキアよりも今回のホルトの方に似ているが、自身の舞台における出世作『エンジェルス・イン・アメリカ』が日本でも上演されたと聞いた瞬間の、はじけた笑顔などは実にチャーミング。「ウワォ、本当かい!? それ見たいなぁ。もちろん日本語だろ? もう再演の予定、ないのかな。大っぴらには絶対にしないけど、劇場ってビデオを撮ってるはずだから、それでもいいから見てみたいよ」と、最後の方はアブないことまで教えてくれたものだ。
そう! タップダンスでアメリカの黒人の歴史を綴った舞台『ブリンギン・ダ・ノイズ,ブリンギン・ダ・ファンク』のMC役のジェフリーも印象的だったが、『エンジェルス・イン・アメリカ』の彼の演技はもう奇跡的と言っていい。彼が演じたのは、エイズにかかった主人公の男プライアーの元愛人にして、もう1人の主人公でやはりエイズで死の床にいるロイ・M・コーンの看護をすることになる元ドラッグクィーンの看護士ベリーズ役。原作者トニー・クシュナーによると、赤狩りで悪名高いマッカーシーの右腕を務め、ローゼンバーグ夫妻を死刑にし、同性愛の人々を迫害しておきながら、実は隠れゲイだったコーンと、このベリーズは、戯曲の中では対極の位置にあるとか。いや、クシュナーの証言を待つまでもなく、ポンポンと歯切れのいいおかま言葉と、派手でコミカルな動きを見せながらも、人間に巣食う“業”のようなものを1人1人にかぎ取り、それでも人間を裁いたりしないベリーズ役の演技は絶品だった。
そして、忘れてならないのは、ジェフリーはその一方で、同作でヴァリウム中毒で広場恐怖症気味の主婦ハーパーの、妄想の中の友人も演じ、ハーパーを見守るその眼差しが『楽園をください』のホルト役に通じていることだ。つまり、他の誰もが気づかぬ中心人物の苦悩を感じ、受けとめ、いつのまにか癒している役柄。「癒し」という言葉はあまり好きではないけれど、今回のジェフリーのトビー・マグワイアとの高水準の演じ合いを見るにつけ、ああ、この人って「受けの演技」が本当に巧いんだっけ、と久しぶりに件の舞台を思い出した。受けて受けて受けまくるからこそ、ラスト近くの演技が効いてくる。毛沢東よりも周恩来タイプの俳優。No.2の味わいを知ってる人だ。
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◆ダニエル・ホルト

ジェフリー・ライト
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1965年12月7日ワシントンD.C.生まれ。
アムハースト・カレッジを卒業。90年にハリスン・フォード主演のアラン・J・パクラ監督作『推定無罪』の端役で映画デビュー。続いてティム・ロス主演の『ブロンクス/破滅の銃声』(91/V)やTVシリーズのゲストなどに出演。
最初のブレークは94年のブロードウェイの舞台で、トニー・クシュナーの戯曲をジョージ・C・ウルフが演出した「エンジェルズ・イン・アメリカ」。ズケズケものを言う看護士ベリーズを演じて、トニー賞、ドラマ・デスク賞、アウター・クリティクス・サークル賞を受賞した。その後は、ウルフ演出“Bring in ‘da Noise,Bring in 'da Funk”や、 地方劇団で“Les Blancs”、“Juno and The Paycock”、“She Stoops To Conquer”、“Playboy of the West Indies”、“Daylight in Exile”、“Search and Destroy”などの舞台を踏んでいる。
96年には映画『バスキア』のタイトル・ロールを演じてブレイクした。同作はアーティストのジュリアン・シュナーベルが80年代美術界で最も賛否両論を巻き起こしながら成功した若いアーティストを題材に監督して、大きな話題を呼んだ。以降はシェール主演のポール・マザースキー監督作“Faithful”(96)、ジェームズ・スペイダー共演のシドニー・ルメット監督作“Critical Care”(97)、金城武とミラ・ソーヴィノ共演の『ニューヨーク・デイドリーム』(98)、ウディ・アレン監督作『セレブリティ』(98)、ダニー・レヴィ監督作“Meschugge”(98)などに出演している。
本作以降は、俳優のエイドリアン・パサダーの監督作“Cement”(99)、マイケル・アルメレイダによるシェイクスピアの現代翻案映画化でイーサン・ホーク共演作『ハムレット』(2000)、モニカ・キーナ共演のロブ・シュミット監督作“Crime and Punishment in Suburbia”(2000)、悪役を演じたサミュエル・L.ジャクソン共演作でジョン・シングルトンが『黒いジャガー』をリメイクした『シャフト』(2000)など、様々なジャンルの役柄をこなしている。最新作に主演作“Sin's Kitchen”、シルヴェスタ・スタローン共演のジム・ギレスピー監督作“Eye See You”などがある。
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