『裏切り者』解説
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新世紀スターが贈る社会派サスペンス
裏切り者 『ゴッドファーザー』よりも切なく、『インサイダー』よりもスリリングに。『猿の惑星』のマーク・ウォルバーグと『グラディエーター』のホアキン・フェニックス、そして『スウィート・ノベンバー』のシャーリーズ・セロンと新世紀スターの競演で贈る本作『裏切り者』は、実際の汚職事件に材をとった一級の社会派サスペンスである。2000年のカンヌ国際映画祭に出品された本作は、ジェームズ・グレイの長編2作目となる。弱冠31歳の新鋭監督によるものとは思えないほどの重厚なドラマは、久々の骨太な本格派と称賛を浴びた。
 ジェームズ・カーン、フェイ・ダナウェイ、エレン・バースティン、トニー・ムサンテと、まるでグレイ監督が青春時代を過ごした70〜80年代にオマージュを捧げるかのような豪華競演陣も然ることながら、特筆すべきはホアキン・フェニックスの熱演であろう。『グラディエーター』では美しくも残忍な若き野心家コモドゥス帝、『クイルズ』では清廉な心を持ちながらサド公爵に魅了されるクルミエ神父。そして本作では、大都会で成功を求めるマイノリティの複雑な心情を表現している。彼は本作と『グラディエーター』『クイルズ』の演技で、ナショナル・ボード・オヴ・レビュー助演男優賞と放送映画批評家協会助演男優賞を受賞した。


ただ、愛するひとを守りたかった
 ニューヨーク、クイーンズ。仲間を庇い刑務所送りとなっていたレオが、刑期を終えて戻ってきた。彼は無二の親友ウィリーや彼の恋人エリカと再会を喜びあい、叔父フランクが経営する地下鉄整備会社で新しい職に就き、人生をやり直そうと決心する。だが、政財界の実力者フランクには裏の顔があった。知らず知らずに組織の陰謀、贈賄汚職、果ては殺人にまでに巻き込まれるレオ。そしてある秘密を知ってしまったことから、レオはファミリーの標的となってしまう。信頼する友、そして愛する母のために、レオは全力で事態を突破しようとする。


現代を写す、家族の肖像
 監督は、デビュー作『リトル・オデッサ』で現代の家族像を描き、ヴェネチア映画祭銀獅子賞に輝いたジェームズ・グレイ。2作目となる本作も舞台はやはりニューヨークで、80年代、彼の多感な青年期に実際に起こった汚職事件をベースにしている。
 登場人物は皆、善悪相まった複雑なキャラクターとして描かれている。新しい家族をこよなく愛しながら、一家の繁栄を守るために汚職の泥沼にはまっていくフランク。エリカの愛とフランクの信頼を勝ち取るため、伸し上がるためには友情さえ犠牲にしようとする自分に苦悩するウィリー。実父を亡くして間もないエリカは母の再婚相手フランクに反発し、自分の家庭を築くことだけを夢見ている。そして母親を愛していながら、うまくその期待に応えられないでいるレオ。愛するものを守ろうとするあまり、いつの間にか誰かを裏切り、罪を犯してしまう哀しみ。ここではある一族にフォーカスを当てつつ、老いていく者と大人へなろうとする者、滅びゆく者と台頭する者、ふたつの世代の対比を描き、様々な人種、様々なクラスが絡み合う巨大都市に起こるドラマを切り取る。物語のクライマックス、二組の母と息子が互いに手を取りあうシーンは、一族の世代が交代していく象徴ともいうべき粛然とした場面である。


ヤングパワーとヴェテラン陣の、絶妙なコラボレーション
裏切り者  本作の最も大きな魅力は、そのキャスティング。主役にはマーク・ウォルバーグ、ホアキン・フェニックス、シャーリーズ・セロンと今最も輝いている次世代スター。脇を固めているのも『ゴッドファーザー』『誘拐犯』のジェームズ・カーン、『俺たちに明日はない』『ジャンヌ・ダルク』のフェイ・ダナウェイ、『アリスの恋』『レイエム・フォー・ドリームス』のエレン・バースティン、『ディープエンド・オブ・オーシャン』『傷だらけの挽歌』のトニー・ムサンテと、ビッグ・ネームの豪華競演。ふたつの世代による絶妙なコラボレーションである。
 重層的で深みのある脚本には、人気TVシリーズ『フェリシティの青春』の製作でも有名なマット・リーヴズが加わった。美術のケヴィン・トンプスン、衣装のマイケル・クランシー、編集のジェフ・フォードは『リトル・オデッサ』からの気心の知れたスタッフである。撮影のハリス・サヴィデスは、元々ミュージック・クリップやCFで有名だが、グレイの前作『リトル・オデッサ』に感応して自ら売り込んできた。そして物語を盛り上げる音楽には、大御所ハワード・ショアを起用。ホルストの管弦楽組曲「惑星」の<土星>をメインテーマに引用しながら、エモーショナルな曲の数々が、重厚な物語を盛り上げている。

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